岬の家/佐東
お前がやれ
それだけを告げると 牛乳の空き瓶の中に入ってしまった そうなると父さんは 誰が呼んでも応えなくなる
手のひらのそれは ずしり と重い
代々受け継がれてきた重さ 腕が 震えているのがわかる
うまく できるのだろうか
誰にも見られてはいけない
誰にも感づかれては いけない
夏の始まりを告げる儀式
父さんは昔 一度だけ 失敗しかけた事があるという 片方が義足なのは そのときの名残だ
ぼくに できるのだろうか
相変わらず 風は止まったままだ
*
その夜 夢を見た
波のない海の底から 夥しい数のフナムシが這い出てくる そい
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