岬の家/佐東
 
お前がやれ

それだけを告げると 牛乳の空き瓶の中に入ってしまった そうなると父さんは 誰が呼んでも応えなくなる
手のひらのそれは ずしり と重い
代々受け継がれてきた重さ 腕が 震えているのがわかる

うまく できるのだろうか

誰にも見られてはいけない
誰にも感づかれては いけない
夏の始まりを告げる儀式

父さんは昔 一度だけ 失敗しかけた事があるという 片方が義足なのは そのときの名残だ

ぼくに できるのだろうか

相変わらず 風は止まったままだ







その夜 夢を見た
波のない海の底から 夥しい数のフナムシが這い出てくる そい
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