/鯉
ちょうど夜がゆっくり腰を上げ始めた塩梅だ。ぼくは座り込んで、待つことにした、尻に当たる、ぬかるんだ土が不快ではあるけれど。蜻蛉はまだ生きていて、少しばかり痙攣している。羽が割れているから、足をばたつかせてもがいている。ぼくは座り込んで待っている。その蠢きが止むのを、なのかもしれない。蜻蛉を眺めていると寝ているともだちみたいだと思う。一人だけ起きて朝に帰ろうとすると、昨日話したことなんかぜんぶ忘れているような顔で、眠りこけている。その蠢きが止むのは、きまって彼ら彼女らが起きて、時計に顔を向けて、ぼーっとするときだった。蜻蛉も時計を持っているのだろうか。それはたぶん彼の割った羽だったのだろう。彼はきっ
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