海一粒の砂粒/すみたに
創傷なのだ。
海水がただの塩水に変わることなんて砂粒には関係のないこと。名前から解放されて砂粒は純で完成した砂粒となった。海水も塩水も名前から解放されて漸くありのままになれた。ただ茫洋とする存在となった「それ」はただうねる、流れる、鎮まる。美しさも醜さも恐ろしさも剥奪されながらも、確固としてそこに存在し、多くの不純なものを抱えている。生命としては純粋なのに、名前のせいで不純になってしまっている哀れな生き物たち。
「初めから海に美しさがあるなんて幻想だったのね」女性はぽつりと呟いた。
もはや「それ」となった存在は不可視になってしまった。恰も蜘蛛の巣を構成する一本の糸になったかのように。蜘蛛の
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