書こうとしたことを忘れてしまって/木屋 亞万
 
ういう名前で、どうしてこのような遠いところまできてしまったのか、確固たる理由や決意があったかどうかさえはっきりしません。土を失った種のように根を張る術を失ったものは、自分が一体何者でどういう役割や目的を持って生まれてきたのか、その重要な中心部分を欠落させてしまうのです。私がわたしらしささえ取りこぼしてしまってもなお、手元に残っていたのが言葉でした。私は言葉が失われるのが怖いのです。言葉を失ったら、人間であることからも逃れてしまうような気がするのです。恐らくは何もかも手放してしまいたくて、全く何も無い状態に憧れてこの状況に身を投じたはずなのに、そのときの快感はこの身から取り除かれた重量感を体が覚えて
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