書こうとしたことを忘れてしまって/木屋 亞万
 
えている間だけで、日にちが経てばそのような感覚の存在が雲のように流れて消えてしまったのでしょう。わたしが手紙と信じているこの言葉たちは、本来の手紙というものからは逸脱したものとなっているかもしれないし、これを読んだ全うな社会の人間はそこから何も受け取れないかもしれません。これはただの廃人の残滓。世を逃れ、あてもなく遁走し続け、俗世から脱け出し、縁のしがらみから解けてしまった憐れな人間の垂らす針の無い釣り糸なのです。あなたへ向かう以外の術をなくした私の中の壊れかけの言葉たちの、最後のあがき。あぁ、末筆ながらわたしを唯一わたしたらしめている茫漠たるあなた。時節柄、どうぞご自愛くださいませ。
                                        敬具

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