書こうとしたことを忘れてしまって/木屋 亞万
 
を核心からゆさぶるものであって欲しいのです。そしてあなたに、より豊かな未来が訪れるよう、あなたの人格の土壌を耕す栄養となるものであればと願っています。長々と前置きをしてしまいましたが、実は私は筆をとるたびに書くべきことを忘れてしまっています。あなたとの思い出を書こうにも、何も思い出されることはなく。あなたが好きなものも嫌いなものも、あなたの笑顔も、いや実は顔さえもすっかり忘れてしまっていて。髪形も匂いも仕草も名前さえも、あなたについての記憶を引き出す要素の一切を喪失してしまいました。実はあなただけでなく、私について定かな記憶すら損なわれ始め、私の姿かたちはおろか、私が何を好きで、何を嫌いで、どうい
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