無音変奏曲/由比良 倖
ドアをノックするだろう、致命的な音を立てて、僕はそれに応えるためのナイフを持たない。
誰かが誰かに誰かが誰かを好きだと言っているのを僕は日記に書いた。それから、誰かが誰かのことで泣いたらしい。それもとても残念なことだ。誰かが誰かであって他の誰かで無いことがときどき悲しいけれど。僕には関係ない。
父が宇宙船の所有者であって、それを誰にも譲る気が無いという夢を見たと父が言っていた。子供のうちの誰に譲るか考えて、それは僕では無かったらしい。でも宇宙船は宇宙人に持って行かれたらしい。そして父はそんな夢を見てはいない。
父と母が並んで眠るベッドの間で、こどもはマッチ箱から逃れられないでいる
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