一服/HAL
だけど星ひとつも月さえも見えない暗黒だけ
到達駅が近づいてきたのだろう
分岐器が働き列車にもその振動が伝わる
そして列車は到着駅のプラットホームで停まり
プシュと音がして列車の扉が開く
荷物は持っては来なかった
必要はないはずくらいは分かる歳だ
ホームに降り立ったのはぼく独り
この列車に乗ったのもぼくだけだったろう
別に出発駅のある街も懐かしくないし
そこで逢ったひとにも未練はない
ただ部屋を出る前に《The Sad Cafe》を
もう一度だけ聴いておきたかったと想う小さな後悔
ぼくは到着駅の表示看板を見上げながらその曲を口笛で吹き
辞めて
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