おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
わけ東京に進学してからは、ずっと。
あたたかいフロアで授業を始める。個別指導の塾なのでふたりは同じ空間にいる。仕切りを挟んで。朝倉氏は数学、宮下さんは英語を担当する。彼女の教えかたは生徒に寄り添っていてわかりやすいと褒められたこともあった。じっさいしゃべっていると感覚的で要点がつかみづらいので意外に思ったのだけれど、ぼくは彼女の近くにいたくてこの町へと戻ってきた。愛している。
ここまで書いてプリントアウトし、彼が遺した大学ノートの一ページ目に糊で貼り付けた。ボールペンのインクが下から透けてうっすらと見えるけれど、どのような記述であったか内容を認めることはもはやできない。ひとまず安心して
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