おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
 
ぼくはこの町が好きだ。
 ぼくが思い出すこの町のイメージはいつも明るい。雨の日も雪の日も晴れやかな心地がする。ここはもともと池の点在する森林で、安土・桃山時代に合戦で敗北した侍と足軽たちが腰を落ち着けていたら追ってきた敵に殲滅された地域だった。それで首がたくさん埋まっているというわけだが、ぼろぼろの体で辿り着き喉の乾きを癒した侍が、
「極楽なり」
 とくつろいだ由縁から極楽町と名が付いた。極楽町。高台なのに急坂がなく建物も低いから視野が広い、そんなありふれた要素だけではなく、この名前も町の明るい感じに貢献していると思えば、「そら殺されるわ」みたいな感想も自然と引っ込んでいくのである。とりわけ
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