おかえりなさい。わたしは彼の内腿へキックを放つ/鈴木妙
時間は零コンマ五秒、これは平均的と称しても構わないものだろうか。ともあれこのようなことも、どこにでも起こるのだ。宮下さんがその立派な後ろ姿を、チェックのマフラーからこんもりとあふれ出る茶髪をわざと見せびらかしているではないか、との疑問ももっともだけれど、そもそも女性や茶髪に限らず人は見られるために動いている。むやみに人を責めてはいけない。それは言いがかりというものなのだ。
歩き出したふたりの塾講師は話題を公立高校入試のことへと変えてしまった。店内では他人に聞かれると情報漏洩になってしまうので、はばかられていたのだった。
「あの子はこのままだと受からないよ」
「わかるわかる」
だが、ぼく
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