墓について/salco
 
の兆しもない
地獄など信じる馬鹿はいないが
主なる神の戒めとは何ら関係のない次元で
人はこれを維持し続けている
何といじらしくも意固地な事か
己が存在に対する若干の欲深さと
より切実な他者に対する愛着のゆえに

よって人間の墓は土中にあらず空の上の上
―― 宇宙空間の絶対無の闇を人工衛星が
飛び交うA.D.2001にあっても
―― 天国なのだ
それは、帰結たる死の為の墓ではなく
永訣の超越
「向こう側」の生き場所だ
それは自分の死滅より寧ろ
愛してやまない対象の無残な消去を拒絶し尚も
詠嘆に身をよじる愛情が建設した再会の場所だ
鞭打たれ続ける愛慕は
追憶だけで
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