口伝/角田寿星
 
ほとんどをふたりで奏でてきた。

武満徹が尺八の音を、
垂直に樹のように起る。
と表現したのには、理由があるのだろう。
琵琶の音が、落ちていく水滴、
ひろがっていく波紋ならば、
尺八は、時に咆哮にまで増幅する風である。
思うに彼らは演奏しながら、
異質の領土に、
垂直の楔を打ち据えつづけてきた。
ひとりの琵琶奏者が。
ひとりの尺八奏者が。
ひとりの作曲家が。
ひとりの指揮者が。

武満が往き、鶴田が往き、横山が往った。
あおい水のような炎を持ったまま。
小澤だけが残った。

ふたたび二〇一〇年、夏。
オーケストラのリハーサルで。
ここはこう振りなさい、小
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