河口の地図 2011/たま
 
たのかはわからないが
わたしが母や姉たちと離れて
祖母の家で暮らしたのは五、六歳のころだった

西に面した鉄路は、高い土手の上にあって
リヤカー一台分のちいさなトンネルが
土手の底にぽつりと開いていた
祖母の家を出てトンネルをぬけると
砂ぼこりの道がまっすぐ
中之島小学校の校庭に向かってのびていて
夏の日の夕暮れ 
道はまだあたたかくて
ちいさなサンダルからはみ出した急ぎ足の小指が
小石を抓んでむずむずと痛痒くなった

ポリ袋に入った鋳物の飛行機が
ひくい軒下でまぶしくかがやいている
駄菓子屋の前をすぎて
校門の前の角を右折すると
歌舞伎小屋のような貝柄町の銭
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