空の子ハイヒールは海に溶けぬ/ayano
上げた。悲しくておとうさんに抱き着くと服を丁寧に脱がされた。撫でられ舐められ抱かれた。傷だらけの手はわたしの体に触れわたしを傷だらけにしていくのだった。それからのことはよく覚えていない。わたしは仰向けに浮いていた。―――わたし、こんなに小さかったかな。
海と父親
自分は水平線というものを知らない。所謂向こう側をみることができないのだ。その変わりに砂浜のほう、つまりはあの子を見ることができた。あの子はまだ外がこわくて波際を苦手としていた。すぐ父親に抱き着くから、波に侵食される自分の陰というものを知らなかった。吹っ飛んだ父親の足のことも、それによってハイヒールが赤くなったということ
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