船に乗る/吉田ぐんじょう
 
な白い客船が停泊していた
いつかの夢で乗り損なってしまった船だった
顔の部分が陰になって見えない船員がわたしを手招いている
混乱したが同時に
以前から決まっていたことであるような気もした
船員に近寄って
もう出発するのですか
わたしにはまだ用事があるのですが、と言う
船員はそれには答えずに腕時計を確認し
大事なものをひとつだけ持ってきていいですよ、と静かに言った
家に戻って部屋の中を見回し
少し考えた末に
パズルのピースをひとつ
ポケットの中へ滑り込ませた
電灯はつけっぱなしにしておく
カーテンもわざと少し開けてゆく
わたしの不在が
そんなに大した問題ではないよう
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