括った髪の分だけ、返して掌/渡邉建志
、
なな月の南禅寺の森に響くあなたの
包むようなあなたの声。
そしてあなたの細い指、
ああ目を回していたのはトンボではなく、
実に私なのでした。
七月の魔術だった。
湿度の高い盆地特有の気候が僕の感覚を狂わせていた。
その七月にはすべてのものがやわらかかった。
やわらかい空気。やわらかい空。やわらかい風。
そしてあなたのやわらかい言葉。やわらかい心。
やわらかいものごし。やわらかいまなざし。
小さいときのおてんばのために目にすこしできた傷はまだ、
きっと残っているのだろうと僕は思う。
「天」はいつもあなたに味方していました。
毎朝、天から今日の分の幸せや楽しみ
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