失楽園/長押 新
 
ないまま、手紙となる。たくさんの手足や命が奪われていく手紙に。手足はやがて影絵のように砂埃の中から生えでる。わたくしはそれが見たい。
その時になると祖先は目覚め、上司が優雅に珈琲をすする、ノーゲストのラウンジに立たされている。珈琲の香りはすでに仕事の匂いに変わり果て、そこにはいつも剣呑さを感じた。照明と光とが筋になり、置かれた観葉植物やシュガーポットを照らす。積み上げられた伝票に目を通さずに、わたくしのものではない印鑑を押し続ける。珈琲のようなおまえら、と指の白い上司は言う。わたくしは手紙を書く、観葉植物にあてて。とても器用に人を傷つける術を、この時、わたくしですら心得ていた。アメリカ、を遮断す
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