木魚屋/魚屋スイソ
ような虫とその死骸が糸を引きながらなだれ落ちてきて足元に積もり、土と肉の混じった茶色いにおい、扉を閉めようにも隙間にスジコのようになった虫の塊があってぶよぶよと反発する。諦めて退避することにした。
暗くてよくは見えなかったが、改めて目をやるとコンロには発酵物の溢れ出ている鍋とフライパン、流しには黒カビが蔓延していて、口にできそうなものは何一つ無く、寒気と悪臭で空きっ腹は収縮しねじれていくばかりで、おれは口腔内に圧搾されて出てきた黄色い胃液をこの台所に渦巻く不穏な巴の中へ吐き付けるくらいしかできなかった。咽喉の奥から空気の抜けるようなエエエッという音がして後には唾液も出てこない。一体あの老店主は
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