正月休みの列車で/砂木
 


びっくりして断ったけれど男性はなおも勧める
まわりの乗客の目もあり 素直にかりた
見ず知らずの女に親切にするのは何故だろう
社会人一年目の未熟な頭で考えたが寒さには勝てずに 
ほとんど言葉もかわさないまま
深夜を過ぎた厳寒の列車の戸口で震えて
その男性も寒くてぶるぶる震えているのが
見た目にもわかっていながら 防寒着を返せずに
自分は人でなしだと思っても
着てしまったものは寒くて脱げずに
結局 その男性が降りるまでかりてしまった
返してくれとは言えなくなってしまったのであろう
その男性と 図々しく借りて着こんだ私は
それきり会う事もなかった

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