正月休みの列車で/砂木
 
た他の乗客は私を酷い奴だと思っただろう
少し かしてくれたからと言って
あの厳寒のさなか 人の物をきこんでいたのである
受け取らなければ良かった
受け取ってもすぐに返せば良かった
返せないものをかりなければよかった
思い出すたびに後悔して身勝手な自分に
苦笑いしてしまうのだけれど

あの名前も住所も知らない男性の
たまたま目の前に居ただけの女への
無償の親切を思い出し 紳士と呼ぶが
私は淑女にはなれなかった
泥棒みたいに暖まっていただけの 
ただの恥ずかしい女だった

ガタゴトとガタガタに揺れながら
火とぬくもりに
まだ 暖まっている
 




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