美術用品のある日常/吉田ぐんじょう
 
機の機内というのは
決まって
座席の上に
無数の真っ白な石膏像が
整然と置かれている光景である


戯れにデッサンでも始めてみようかと
ステッドラーの鉛筆と
額縁とを買って帰宅した午後
少しまどろむと
いやに濃い白黒の
こわいものばかりが出てくる夢を見た
はっと目覚める
鉛筆を握りしめていた
鋭利に削ったはずの芯は随分と摩耗し
指や手首が鉛の粉で真っ黒になっていた
呆然とする
石鹸で手を洗ってから
改めて同じ鉛筆で自画像を描いてみたが
完成したものは惨憺たる出来で
顔と言うよりむしろ
腫瘍と言った方が正しいぐらいで
こういうものが
また夢に出てきて
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