故 中川路良和 詩作品より/まどろむ海月
 
降ったあとの
静かな夕方には
ある一人の人生が
チロチロと流れてゆく
今すぎようとしている
「時」を
わけもなくみつめている






     ? 寒い風が


異国のゴルゴダの丘から

寒い 寒い風が吹く

暗い夜の下で 一人

泣くことも

失なわれ

川の上に無常の影さえも

消えてゆく

一人

「人間」と名のつく者が

闇をたよりに泣くかもしれない

淋しい小道を歩きつづけ

夜汽車の通るふみきりに

凍てついたクルスを胸におしあて

うしろに点滅する光をふりかえる









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