故 中川路良和 詩作品より/まどろむ海月
 

     ? 雨に向って


霧のようにこまやかな刻が
さめざめと
降りつづく

うずもれて鉛色に重い空には
冷たい心は
もう宿ってはいない

木々の枝は
ぬれて自分でも気づかぬ内に
頭をもたげている
さめざめとした刻がいつしか路上に一すじ
悲しい声で流れてゆく

人は思い出したように
マネキンを一瞬ながめては
溜息をついて歩いてゆく

マネキンは何かいいたげだ
このさめざめとした
雨に向って








      ? 春のあつい日


春のあつい日
古い西洋館のへいを
歩いていると
ふと 自分の足音に気づいた
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