フェリー埠頭にて / ****`04/小野 一縷
学的反応により 瞳孔は真円の面積を広げる
その拡散率に比例して意識は冴えてゆく 広く深く
一人 二人 何人か 鉄柵にまた腕を預けている
遠く皆 沖を見つめている 恋人たちもいる 子供もいる
21:49
夜としてはまだ早い 窓を開けると肌寒い すでに皮膚感覚は鋭い
あと一ヶ月半で この街に 冬が訪れる
この街は 冬そのものに 灰色に埋もれる
そして訪れる者は殆どいなくなる
都会からこの街へ帰ってくる者は大抵文字通り
都会に呑まれて吐き返された敗北者だ
分類上化学物質のあれこれが この心身を変質させた
お陰で30歳を過ぎても精神が完熟しないまま分類上大人になった
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)