フェリー埠頭にて / ****`04/小野 一縷
チンを摂る
微かで軽い眩暈が心地好い
祖父はエコーを吸っていた
「イイ子」と その煙草の名を教えてくれた
その祖父は28年前に亡くなった
戦中を兵士として生き抜いて
平和な時代に肺癌で死んだ
赤い火が滲んでは消える
海は揺らめきを見せない ずっと黒く沈黙している
船に乗って この海を越えたい
海の向こうはもっと秋の紅い軍が侵攻しているはずだ
ずっと連なる雲は山脈のように彼方の陸地まで続いている
夜空の暗い雲が冬へとずっと繋がっている
冬に生まれたので
実際より冬というイメージだけは嫌いじゃない
車内に突如昇る陽炎は無色透明な有機化合物
それらの脳内化学的
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