アジャセのしるし/殿岡秀秋
 
を遠ざけて、坊主にならないでいるしかない。大人になっても坊主にならないでいるほかに方法がなかった。
母は始終ぼくが坊主になるようにいっていた。あなたは手術台で死ぬ運命だったのを、お坊さんにすると決めたからこの世に生を受けたのだ、だから逆らえない運命なのだと。
死ぬ前には、さすがに、あの子は坊さんにならないね、と母は家族にいった。それでも手術台の話は繰り返し語った。
代わりというわけではないが、父は定年後、嘱託の時期を終えると得道した。
ぼくは坊主どころか、中学生になると、信心もやめた。それ以来、ぼくは母の信ずる宗教をやめ、坊さんにもならないことで、強制された運命を逃れることができた。

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