アジャセのしるし/殿岡秀秋
しかし、宗教への関心はのこった。今は公園にある二本の樹を祈りの対象としている。日当たりのいい場所にあって、日に光るクスノキとその隣にまっすぐに立って冬は葉を落としている銀杏の樹だ。
家族や親しい友人の幸せを願い、ぼく自身については感謝の言葉を述べることにしている。毎日はいけないので、毎朝の瞑想のときにその立ち姿をおもい浮べる。これはひとりで行う宗教だ。
樹木への信仰は、神への生贄がいらない。樹の幹に言の葉を茂らせ、その木陰に安らぎの空間が生まれることを願うのが、ぼくの信仰である。
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