巣/リンネ
スーツ。その部分だけ空間がそがれたかのように黒かった。しかし、そもそもどうして私はあれが男だと分かったのだろうか。壁のほうに向かってうつむいていたため、顔の様子は分からなかった。それでも、あれは男だろうし、その顔は私よりも整ったものだろうという気もした。あいつはだれだ。
たとえばあの男は訪問販売員かもしれない。たしかに、あの小奇麗な身のこなしはそういう胡散臭さを感じさせた。しかし、そうだ、なぜあの男は靴を履いていたのだ!人の家に土足ではいる販売員があろうか!いつのまにか男に対する恐怖がどうしようもない怒りに変化しつつあった。ここは私の家ではないか。なぜ私が隠れていなくてはいけないのだ。久しぶり
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