巣/リンネ
 
のは、どうやらバナナケーキに間違いなさそうだった。
 そう思ったそばから腹が鳴り始めた。どれくらい食べていなかったのだろうか。手元の鏡を見れば私はかなり痩せているようだった。私は伸びをしてベッドから立ち上がり、匂いのするほうへとぼとぼと歩いた。ドアノブがやたらとひんやりしているように感じた。私はゆっくりと部屋を出た。
  
 狭い廊下の突き当たりに、見知らぬ男が立っていた。予期せぬ出来事に無防備な私は、哀れな犬のように後ずさりながら部屋に戻った。震えながらドアを閉じる。
 あいつはだれだ。当然のように疑問に思う。髪は光沢をもって捲し上げられ、男は黒いスーツを着ていた。どこまでも真っ黒のスー
[次のページ]
戻る   Point(2)