蠅車掌/(罧原堤)
 
じめる。幸せそうなカップルたちの間を通り抜けて、通り抜けて。私を愛してくる人は誰もいないの? そんな思いがこみあげてきてしかたなかった。
 階段をのぼりきると、駅のプラットフォームにぐるぐる粉雪が舞っていた。少女は急いで電車の中へと駆け込んだ。一人のみすぼらしい少女がそこにはいた。赤い毛糸のセーター。赤い髪して、チュッパチャプスの棒を口から出して、少女は窓辺にこしかけていた。ハエは彼女の手提げカバンの中に隙間から入りこむと、そのまま静かに揺られていた。少女の家まで。ザックザックと雪が踏みしめられる音をききながら。カバンの中は暖かかった。それに何かの香料のいいにおいがしていた。
 どうやら無事、
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