蠅車掌/(罧原堤)
 
が、お父さんが自殺してから、ずっと…… 私、子供のころから一部屋しかないアパートに住んでた、お母さんは台所で寝てた、一部屋しかないその部屋を私につかわせてくれるために。でも私がマンションに住みたいって駄々こねたから…… こんなアパートに住んでちゃ恥ずかしくて友達も家に呼べないって……」
 少女は目に涙をためて、
「私がそんな無理言ったからだからお母さん死んじゃったの? だって線路沿いのマンションしか私たちには住めなかったんだもの。誰も住みたがらないところしか私たちにはいばしょがなかったんだもの……」
 彼女の背後にあるガラス窓に雪がちらついていた。
 ハエはイチョウ並木の葉陰にかくれながら
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