温泉街/捨て彦
 
でトミー…」
「NO!」
おれはまだ一言も小林君に通訳をしてもらってはいなかった。こういうとき、ひょっとすると実はトミーは今ではすっかり日本語が理解できており、その語感に潜む微妙な機微や空気感をも感じとっているのではないかと疑った。しかし四六時中トミーに付き添っている小林君にいくら聞いても、アノ人は全く分かっていませんよ、というばかりで一向に埒が明かないのである。
仕方がないと思い、おれは財布の中から現金を出した。旅行ということでいつもより多めに現金をもっていた。全部で二百万あった。
「これで如何か」
トミーは小林君になにやら小声で指示を出し、それを聞くと小林君は部屋を出ていった。そうし
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