温泉街/捨て彦
うしてトミーはおれの方を見ながらゆっくりと笑顔で頷いた。
それからおれたちは、おれがデーモンに襲われた足湯に戻ってきた。遠くから見てみるとよくは分からなかったが、近くまできて初めて分かった。さきほどのデーモンが足湯に漬かりながら、夢見心地で日頃の喧騒をすっかり忘れるかの如く全力でくつろいでいたのである。おれはそれを見て酷くぶちぎれ髪の毛が逆立った。明確な殺意を自覚した瞬間である。するとトミーがおれを緩やかに制止して前に躍り出た。次の瞬間おれとトミーに小林君が浮き輪を手渡した。
トミーが天に向かって両手を広げ「モーゼダー」と叫ぶと、大地にうずめく全ての水が大きな洪水となって温泉街を飲み込んだ。お
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