温泉街/捨て彦
 
おれはトミーを大声で呼んだ。
「ト、トミーさん!」
トミーは学生たちに囲まれて、ゲジゲジのストラップを押し付けられていた。トミーは昆虫が何よりも嫌いなのである。トミーはこっちを見ておれの姿を確認したが、日常的に生徒にイジられているその姿をおれに見られたくないのか、すぐに視線を他所にやってしまった。おれはそのトミーの行動に酷くぶちぎれて、奴の浮気相手の名前を大声で何度も叫んだ。学生たちは何事かと一斉に此方を見た。その声を聞いた途端トミーの顔色は一瞬で修羅に変わり、一目散におれの下に飛んできてかつてのボクサー時代の頃の年季の入ったリバーブローをおれの脇腹に深々と突き刺した。おれはゆっくりとその場に
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