温泉街/捨て彦
逃走中、携帯で旅館に連絡を入れてみたが誰も出ない。なるほど、この地方の持ち前の穏やかな気質というのは本当だったのだ。悲しいことだがネットで事前に調べた情報は真実だったのだ。この地方の人間は六に電話も出ないで厨房に集結し皆で四方山に華を咲かせている。その事実を目の当たりにした時、おれは逃走しながら暗澹たる気持ちになった。おれは今、根限り走っているが、いつしか力尽き身内も居ないこの小さな温泉街に倒れ伏してしまうだろう。嗚呼、こんなことならばもう少し吉野家の牛丼を食べておけば良かった。昨日自宅で食べなかった冷蔵庫のナタデココ。肥満を気にせず全力で食べてしまえば良かった。今になってあらゆる後悔が募る。背中
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