薄く、淡く、確かに。/灯兎
 
とも会うこともない。それが一つ目。そして先に帰ってくれないか。これが二つ目。」
 「いいわよ。でも勘違いしないでね。私はあなたのことを嫌いになったわけじゃないの。ただ互いにとって良い選択肢を取ろうとしただけよ」
 「僕だってそうだ。だからそのことについては心配しないで」
 彼女はまるでもうすぐ咲くのを知っているかのように桜を見上げ、視線を落としてから立ちあがった。珍しく綺麗に伸びた背筋が、もう振り返ることはないのだと言っている。
 「ありがとう。さよなら」

 僕がそこに付け加えるなら、「ごめん」だ。彼女が去って行った公園は、本当に静かで、このままここにいたら僕まで桜の一部になってしま
[次のページ]
戻る   Point(0)