薄く、淡く、確かに。/灯兎
しまうんじゃないかという気さえする。それもいいのかもしれない。誰もが僕のことを覚えていなくても、この桜のことを覚えている人はいるだろう。嘘みたいな優しさで、あるいは優しい嘘で、自分と彼女のあいだの溝を埋めていた不器用な僕には、そんな最期だって似合いだと思う。そんな僕の姿は、桜に似ていたかもしれない。そう思うのは僕のわがままで、けれど誰に認められなくても、僕が認めてやる必要があるんだと感じた。こう桜だって、覚えている人がひとりもいなくなってしまえば、きっと寂しいだろう。やっと腰をあげた僕の右肩に花弁がひとつ落ちて、やわらかい風の音が聞こえた。
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