未明 / ****'99/小野 一縷
こびりついた
目を閉じて 臨む 海辺
遠浅
凪を覆う 停滞した波音の木霊が
漆黒の舞台で 夜想曲を口ずさんでいる
ピアニストの左手の薬指
繊細で正確なタッチで 砂浜が泡立ちを 吸い込んでゆく
幽玄
冷気を走らせる深夜の水平線
夜光虫は黒曜石のもつ沈黙に似た艶やかさを
波間に投げかけている
星々と その揺らぎの 弱々しさを競うかのように
季節の節目の匂いは
街を吹き抜ける ありきたりな風に混じるように
波の上を翔けてくる潮風には 紛れることが出来なかった
遠く鳴いているのは
警笛
赤色を 時折灯して 渡来船が
波を 幾億の波を 一つ一つ越して
新しい
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