流れ者/ゆえづ
錆びた非常ドアがぎしりと閉まる
外はすっかり冷えきって
昼間の汗ばむ陽気とうって変わり
仕事を終え帰路につく頃は雨だった
思わず手を突っ込んだポケットには
わずかばかりの砂利銭と
明日の予定を書き記したメモがあった
あまりの空腹によろけそうになる
「まだいける」
そう自分に言い聞かすように口を堅く引き結びくいと顔を上げた
前方にこちらをじっと見ている野良猫がいる
『おまえは誰なんだ』
問い詰めるような目に足がすくんでしまう
答えを探している間に野良猫はくるりと背を向け去って行った
「待てよ。俺は」
呼び止めるも二言目が出てこない
鞄を引っ掻き回してもそれらしき答
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