スコール/なまねこ
 
がくちびるをなめると、夏の虫の羽音がした
みどりいろのランプを顔に貼りつけたまま、彼がすこし笑った

走りだしたバイクの周りの空気には、たくさんの泡がまじりこんでいる
この町の冷えたたんさんいんりょう、から逃げのびた泡
かれらはわたしのえりもとまで飛び込んできては、マフラーにしみこんだ
曲がり角の信号が点滅している
さわやかなオレンジ色のランプ
彼が冬の注射針につき刺されている町の隅の、
細い曲がり角には、点滅するオレンジ色のランプがある
彼はそれを知らない
わたしの手を注射針が刺した
手の甲からひきつった冬が流れ込んだ

キーシリンダーがちりちりと鳴いた
指で探ると
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