つっかえ棒/伊織
 
動が母方の実家から度々持ち上がるようになるが
母は必死になって抵抗した。
「この人いなかったら、どうやって私たち一家は食べていくの!」

しかし既に娘と息子は成人し、あとは職に就くだけであった。


 (おとうさんはね、人間性は素晴らしいのよ。
  ただ、借金癖があっただけで)


父に先立たれて6年、
母は赤子だった孫と床に伏せることしか出来なかった鬱病の娘、
いつまでも定職に就かぬ息子を献身的に介護することのみで存在意義を獲得していた。





やがて泣くことと這いずることしかできなかった孫は買ってきた服のセンスに難癖をつけるまでに成長し、鬱病の娘はかつ
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