方舟のなか、壁にもたれて僕は/汐見ハル
 

まなざしが僕を縛る
後ろ手に方舟の扉をとざしたら
軋(きし)む、雷鳴

泡音
耳障りに引っ掻く
叩く
揺れる方舟
泡音、乱れて
絶える
それらはすべて向う側の出来事だ、と
夢うつつに聞きながら
そこに混じる悲鳴のような喘(あえ)ぎのような何かは
壁一枚隔てただけの運命だ
謝りたいという衝動にかられて
めをとじる
そして
わからない駱駝の言葉に
耳をすます
しめった草のにおい
生暖かい鼻先が
入れ替わりにやって来ては
僕の皮膚を舐める
融ける
それを駱駝は吸い、また眠る
融け出した僕の皮膚は
やがて乾いて鋼となった
繰り返し融かさ
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