方舟のなか、壁にもたれて僕は/汐見ハル
 
かされて
何度でも鋼になった

駱駝の舌は砂利の感触だ
轟音(ごうおん)
途切れる 意識
そしてまた何度でもめざめる
動けずにいて
抱え続けたままの融けない欠片(かけら)とか
鼓動の在り処とか
いつまでも鋼にならないまま残り続けて
だから
待っているみたいだとおもう
あかい星に名前をつけようとしていた僕の
なまえ、を
僕が忘れてしまう前に

やがて凪いだ世界で
いくつもの方舟がめぐりあうことだろう
それなのに駱駝たちは眠り続けて
とざされたまま
未だ陸のみえない世界で
方舟は水面をすべりながら
月を 渡ってゆく

そうして僕は朽ちることをゆるされず
融かされて 乾いて
少しずつちいさくなりながら
方舟のなか、壁にもたれて
いつのまにかできていた天井の裂け目から
差し込む蜜色のひかりを
あたたかく感じながら
うたう
擦り切れる一歩手前の
つぎはぎだらけの歌
うたう

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