方舟のなか、壁にもたれて僕は/汐見ハル
確かさに埋もれ
飢えた腹を
風が通る
からからと、骨のかけらが鳴る
そして
闇の向こうに佇む
一頭の駱駝(らくだ)が
濁った水のいろした瞳で
僕をとらえた
眠たい瞳で、緩慢な、けれど
促す仕草でもって
駱駝はくい、と顎(あご)を動かした
弾かれたように立ち上がり
からっぽの腹を抱えて僕は
砂に潜る足を引きずりながら
ちいさな方舟へと導かれた
駱駝は方舟の中央で
長い足を折りたたむ
少し距離を置いて
炎にくべられた薪のように
横たわるいくつもの体躯がならぶ
眠っているのもあれば
わずかに目蓋をもちあげて
拒むでも受け容れるでもない
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