方舟のなか、壁にもたれて僕は/汐見ハル
キスを配ってたけど
筋ばった腕に余るのか
抱えきれずにぽろぽろと落ちていった
転がりながら口が消えてく弟妹を
一番上の兄さんが網でからめる
僕は走り出す
捨てられたのでないと思うために
ごめんなさい
父さんの中指の骨を飲み込んで
帰れない方舟のゆくえを
追いかけたことなど一度もないのです
降ろされた砂の海のうえで
水の匂い待って身体投げ出していた
暮れてゆくせかいを見届ける日々がはじまる
焼け焦げた樹木の残骸が
月に、吠える夜に
神様じゃない、神様じゃないんだ
奪われなかった口で呟いてみたけど
はいずる人々のうめき声と風に紛れ
鳴る、びょうびょうという確か
[次のページ]
戻る 編 削 Point(7)