不知火の海/楽恵
送り出すのだと言う
その言葉が妙に胸に残った
夜も更け眠りについて
どれくらい時間が経っただろう
真夜中ふいに目が覚めた
窓の外の海鳴りが
いつのまにか止んでいた
ガラス越しに闇に沈む黒い海を見た
(凪だ)
海上の風がまったく止んでいた
波さえ漆黒の鏡のように静かだった
気がつくと私は
港の桟橋を夢遊病者のように歩いていた
新月の夜の海は
天空の星を全て吸い取ったかのように暗かった
遠い海面の波間にチラチラと微かな炎が見えた
初めは漁火だと思った
火はだんだんと増えていった
心奪われるように見つめているうちに
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