不知火の海/楽恵
 
が怖いほど身体に近かった

私にはそれが
島原の乱で皆殺しにされた
切支丹農民たちの怒号のように思えた

夕刻迫る多比良の埠頭に降り立った頃から
風はさらに強く吹き、桟橋付近の波もさらに荒くなった

自らの命を懸けるほど
絶対的な信仰をもたない余所者が
この半島を踏むことを糾弾するかのようだった



港のすぐそばにあった漁師が営む民宿に泊った
タコツボ漁の真っ最中で
旧盆が近く
客は私一人だった

気立ての良いおかみさんが夕飯時に
盆の精霊流しでは藁と竹で作った船に切子灯篭を飾り付けて海に流すのだと教えてくれた
死んだ人の魂を海の向こうの西方浄土に送り
[次のページ]
戻る   Point(13)