焚き火がしたかっただけなのに/草野春心
 
てゆく
 炎が洗面器の水に赤々と映え
 僕の手のひらを温める
 でもそれは
 そう、幸福と同じように短い出来事にすぎない



 洗面器に落としたティッシュペーパーの灰は
 まがいものの幸福の
 その成れの果てだ
 僕はそれを見て思う
 幸福のあとの混迷のこと
 音楽のあとの静寂のこと
 愛情のあとの悔恨のことなんかを



 ティッシュペーパーが無くなったので
 ティッシュの箱を燃やした
 いらなくなった文庫本を燃やした
 旅行ガイドを燃やした
 文字の記されたものも記されていないものも
 あらゆるものを
 次から次へと
 僕は燃やしてしまう

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