『nopain island』/川村 透
の刺青をむしりとって彼女に向かって差し出しているのだ。
いや、違う、蝶だアサギマダラだあの島に棲む蝶の
死骸だった。
凍りついたように無反応の彼女を、とがめるように、
いらだちを押し殺してでもいるように、ふるえながら
少女は差し出した蝶をゆっくりと胸の刺青にあてがってみせた
うつろに黒い瞳で泣き笑いの笑顔を作ると、少女は
くちびるで大切な人の名をマーキングするみたいに
アサギマダラにキスをして、ついばむようなキスをしてそれから蝶を
おごそかに喰べ始めた。
胴のところからふたつに裂いた相似形の片割れ、りんぷん、にまみれた
羽はとても、そう、砂糖をまぶしたお菓子のようにおいしそう
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